光エネルギー変換用の半導体光電極の開発
Development of Semiconductor Photoelectrodes for Solar Energy Conversion
人類が持続可能な社会を構築しさらなる発展を遂げるためには、再生可能エネルギーの高度利用および拡大が必須であると考えています。再生可能エネルギーである太陽光エネルギーを利用する場合、太陽電池発電や太陽熱発電によって電気エネルギーとして利用できますが、地域偏在性や輸送と貯蔵の観点から、太陽光エネルギーを化学エネルギーへ変換する技術の確立が課題です。
本研究室では、半導体光電極および半導体光触媒を用いるグリーン水素製造に関する研究に取り組んでいます。これまでに、光学特性と励起キャリア輸送効率(図1)に係る半導体材料の特性と触媒反応サイトの高度設計が、反応全体の効率を向上させることを見出してきました。高い効率で触媒反応を駆動できる革新的な半導体光電極を開発することで、電気と光を軸として化石資源からの脱却や資源問題と環境問題の解決に資するシステム創成に貢献したいと考えています。にこに

図1. 光照射下のn型半導体光電極/水溶液界面における素過程とその時間スケール.
では、半導体光電極とはいったい何を指すのでしょうか。図1を例にして説明します。半導体材料から構成される電極を水などの媒体に接触させた状態で(ほとんどは水中に沈めます)、バンドギャップエネルギーに対応した波長の光を吸収します(1. 光吸収)。光吸収によって生成した励起子が電子と正孔(ホール)に分離します(2. 励起子分離)。この励起子分離(電荷分離)で生成した電子と正孔をキャリアと呼び、このキャリアが電界または濃度差を駆動力として輸送・拡散されます(3. 拡散。4. 輸送)。キャリアが電子で水溶液側まで移動し、酸化体(例えば水素イオン)を還元すれば還元体(例えば水素)が生成します(5. 触媒反応。6. 物質輸送)。その逆に、キャリアが正孔で水溶液側まで移動し、還元体(たとえば水)を酸化すれば酸化体(酸素)が生成します。以上の1から6までのステップ(素過程)の全てを高い効率で進行させることができれば、光エネルギーを利用した物質変換プロセスの効率を向上させることが可能です。
当研究室では、半導体材料の半導体特性の制御を始めとし、半導体と液体からなる固液界面の設計と分析を通した光電極の開発を進めています。図2にn型半導体光電極を用いる光電気化学水分解のイメージ図を示します。光照射によって生じた正孔(+)が水を酸化して酸素を生成しています。一方、光照射によって生じた電子(ー)は、光電極と直列に接続された金属電極(電極触媒)まで移動して水素イオンを還元して水素を生成します。半導体光電極と水の間には、助触媒と呼ばれる超薄膜またはナノ粒子が挿入されています。この助触媒は光励起で生じたキャリアによる化学反応を促進する役割を持ちます。この助触媒の材料開発や助触媒の特性解析も進めています。

図2. n型の半導体光電極を用いる光電気化学水分解.